「こんばんは」
「あ…どうしたんだ。こんな夜遅くに」
「なんとなく眠れなくて。あなたこそ、こんな夜遅くまで大変ね」
「これが仕事だからね」
「人ひとり見当たらないのに」
「何かあったときのための警護だからね。何もなかったらそれはそれでいいことなんだよ。…正直、退屈なのはつらいけどね」
「ふふ。あなたらしい」
「……」
「どうしたんだ?」
「うん…」
「いつもの君らしくないな」
「…うん」
「わたし、あなたが本当に好きよ」
「!急に…びっくりするじゃないか」
「誰も聞いていないわよ。というか、聞かれて困ることじゃないでしょ」
「まぁ…そうだけど…」
「……」
「私も…いや、俺も君のことが本当に好きだよ」
「ありがとう。
…初めてジュノに来て、右も左も判らないこの街で、オロオロしていたわたしに、あなたは本当に眩しかった。どの冒険者にも分け隔てなく接していたし、自分の仕事に対して誇りを持って真っ直ぐ立っているあなたにとても憧れてた。
用事もないのに、しょっちゅうやってきてはシグネットもらったりしてわね」
「…息を弾ませて、よくその階段を駆け上がってくるのを見たよ。最初は、君の事を「よくいる冒険者」のひとりにしか思えなかった。
でも、多くの冒険者が私のことを町の風景の一部程度にしか捉えていない中で、君はいつも「私」に向かって話しかけてくれたね。今日の冒険の話、街の風景、そして将来の夢を。
いつの間にか、私は君が現れるのを心待ちにするようになってしまった」
「私ね…もう、此処へは来られないかもしれない」
「…!」
「夜明け前に…ジュノを出発するわ」
「ミッションで?」
「ええ。だからあなたには何も言えないけれど…」
「……」
「楽しかったわ…本当に貴方がいたから、いつも変わらず貴方が此処にいてくれたから、わたし頑張れたんだと思う」
「止めるわけにはいかないのか…君の代わりに誰かが行くわけには」
「私は冒険者よ」
「……」
「ずっと一緒に居たかった。だから、すごく迷った。でも…わたし行くわ。そう決めたの」
「…そうだね」
「ねぇ」
「うん?」
「月夜とはいえ、今日はちょっと暗いわね」
「うん」
「これなら、今、貴方のほうを向いても、きっと…泣いてるの見えなくていいかもしれない…わたし、今のうちにシグネットもらっておこうかな…」
「……」
私は
3国のコンクェスト支援をするジュノ親衛隊
Morlepicheである。
任務ご苦労
シグネットをかけてやろう。
「ありがとう。体に気をつけて…元気でいてね…。こんな事言う資格、ないと思うけどでも…あなたは、ずっと変わらない人でいて」
「……」
「さよなら」
「…武運を」
「ありがとう」
「…待っているよ。
ここで、ずっと君を…待っている」
月だけが、聞いているそんな夜。